ワインを学んでくると、冷涼な気候、温暖な気候なんて産地の温度について書かれている物を見かける事があると思います。
ドイツは冷涼そうだし、スペインは温暖?・・・ナパ・ヴァレーとか暑そう。大体こんなイメージが最初の印象だと思います。
そこをもう少し掘り下げて、学術的と言いますか、ちゃんとした区分をお勉強しよう!ってのがこのページの趣旨です。
気候帯まで気にし始めたら、もう中級者超えてると思うので「ちょっと上級編」と言う事になってます。
目次の通りに進めていきます。何となく温度帯に理解が深まると共に、地球温暖化が及ぼす、ワイン界への影響までがわかるようになりますよ!
温度帯の分類
まず最初に温度帯の区分ってどんなのがあるのか一覧にしてご紹介しましょう。
・冷涼気候 COOL Climate
・温和気候 MODERATE Climate
・温暖気候 WARM Climate
・高温気候 HOT Climate
一覧にするとこの4つの区分帯に分けるのが、一応世界標準です。
日本語にすると「温和」と「温暖」の差が著しくわかり辛いので、ここどうにかして欲しい思いでいっぱいです。英語の方が結構覚えやすいのでオススメ。
それぞれの気候区分帯の分け方にはちゃんと理屈があります。
生育期間の平均気温がどれぐらいなのか?
が勝負の分かれ目です。生育期間は
北半球 3~10月
南半球 9~4月
品種によりけりで、この期間を全部使うわけではないですが、大体これぐらいで認識していれば大丈夫です。
早い話が「春~秋」の平均気温って事ですね。それぞれ以下の定義があります。
冷涼 : 平均気温 16.5℃以下
温和 : 平均気温 16.5-18.5℃
温暖 : 平均気温 18.5-21℃
高温 : 平均気温 21℃以上
こうして数値で見ると思ったよりも幅が狭いのと、高温ってそんなもんなの?って思いますよね。
春と初秋ぐらいまでの季節が含まれての話なので、高温と言ってもこれぐらいにはなります。
ちなみに日本のブドウ産地として有名な「甲府」の4-9月の平均気温は、計算すると21.5℃ぐらいなので高温に分類されます。(1981-2010年の統計データを元に算出)
実際にはこれだけではない
この基準で当てはまると冷涼だったり、温暖だったりと大まかな区分をする事が出来ますが、実際にはそれだけでは見えない所が沢山あります。
まず周りよりも冷やす例から見ましょう
例えば「標高が他より高い」なんて言うのは代表的な例です。
200mも上がれば平均気温が1℃下がるので。100mでも0.5℃変わります。「2℃刻み」ぐらいで温度帯が変わる世界にとっては標高の200mは大きな差なのです。
後、極端な「くぼ地」なんかも温度が低かったりします。冷たい空気は下にたまるので、夜間にたまった冷たい空気が逃げないようなくぼ地がたまーにあります。
「風」の影響もあります。よくあるのは渓谷で風の通り道になってるパターンです。風通しがやたらいいと涼しいですからね。
「大きな水源の近く」も涼しいですよ。川の上にかかる橋を渡ると、明らかに温度が低いのを夏場とかには感じますよね?川沿いにブドウ畑がある場合はその効果で、数度ぐらい下がったりします。
暖める例はどんなのでしょうか?
「南向きの斜面」は日当たりが抜群です!
気温って百葉箱とかでご存じと思いますが、日陰の地面から2mぐらい上がったところの気温を測ってますよね?
南向きで日当たりのいい畑は、その条件より確実に暖かいです!
「石が多い」ところも気温があがります。
石はかなり保熱出来ます。夏のアスファルトを想像してください。夕方になっても地面は暑いですよね?
石も全く同じで、夕方になっても、経ては夜になっても暑いです!そうすると夜間の気温が落ちないので、平均気温を上げる事になります。日中も暑いから当然上がりますし。
顕著な例はシャトーヌフ・デュ・パプですね。あそこはこれから暑くなりすぎ問題をはらんでますが・・・
とこんな感じで小さな場所単位では「同じくくり」の産地でも個別の事情があったりもしますので、温度区分だけで産地を評価してはいけません!
ただし、傾向自体は見て取れるので、そこは大いに参考にしましょう。
温度区分帯別 代表産地
冷涼気候 COOL CLIMATE
近年、明らかに人気があるのはこの「冷涼気候」で造られるワインです。
冷涼気候ワインの特徴は「酸があって、アルコール度数は13%ぐらいまで。赤ワインの場合タンニンも少な目」な傾向があります。
様はすっきりしたワインが多くなる温度帯です。
ヨーロッパでは、「シャンパーニュ」「シャブリ」「ドイツ全般」「オーストリア」最近は「イギリス」なんかも入ってきます。
ニューワールドはこの辺りの開拓が旺盛で、かつては温暖なイメージだったあオーストラリアでは「タスマニア」なんか開拓されて人気です。
かつて温暖大国なイメージのチリですら南部の開拓が進んでいて「イタタ・ヴァレー」「ビオビオ・ヴァレー」なんかこぞって大手が進出しています。
アルゼンチンも南部の開拓が進んでいますし、世界中で涼しい土地を開拓するブーム真っただ中です。
温和気候 MODEARTE CLIMATE
温和な産地の代表例はなんと言っても「ブルゴーニュ」でしょう。ピノ・ノワールを美味しく作るなら圧倒的に向いている気候区分帯です。冷涼すぎるとちゃんと熟しませんからね。
フランスだと「アルザス」も温和です。北にあるから冷涼そうですが、ワイン畑の多くが南向きで日当たりめっちゃいいので、本来なら冷涼でもいいぐらいなのに温和ですね。実際に品種にしては、ずいぶん温かい味わいがします。北向き斜面は冷涼です。
.「ボルドー」も実は温和気味ですが、ちょっと温暖に触れてきてます。この辺は後程の温暖化の項で詳しく。
世界的にも多い区分帯で、イタリアでは「ピエモンテ」、アメリカの「オレゴン」、ニュージーランドの「マールボロ」などこうやって見ると、割と涼しげな産地に見える。
そう「温和」って言う温かみのある日本が惑わすけどModerate Climateは一般的には涼しい!ぐらいの分類なのがわかる。ややこしい。
温暖気候 WARM CLIMATE
ここに来ると、英語でも暑そうである。
フランスで言うと「南仏」の気候帯区分にあたる。ほら暖かそうでしょ?
ニューワールドが開拓されまくっ頃は「ロバート・パーカー」全盛期だったのもあり、この「Warm Climate」のワインがもてはやされた歴史と言っても過言ではない!
温暖になるとブドウはよく熟すし、タンニンも濃いし、アルコール度数も上がる半面、酸度は落ちる傾向にある。
俗にいう「濃いワイン」が産出しやすい温度帯区分ですね。
なので、一昔前に流行っていた濃いワイン産地は大体温暖です。
イタリアとスペインは大部分がここですし、
オーストラリア「バロッサ・ヴァレー」
アメリカ「ナパ・ヴァレー」
アルゼンチン「メンドシーノ」
チリ「マイポ・ヴァレー」
なんかの「カベルネ・ソーヴィニヨン」とか「シラー」がかなり熟す気候帯です。
今は人気を急速に落としている「濃い味ワイン」なので、この辺のかつて人気だった産地から、今はやりの「冷涼ワイン」へのシフトが進んでします。
高温気候 HOT CLIMATE
ここまでくると、あまり有名な産地は残りません!
高温気候に分類されるのは「平均気温」が高いと言う事は説明したと思いますが、昼間温かい地域でも、ワイン産地は大抵の場合「日較差」(Diurnal Range)と言われる、一日の中でも気温差が大きい場合が多いです。
例えば「最高気温 35℃」「最低気温 19℃」みたいなパターンです。こう言う産地は平均気温的には低くなるので、高温産地には入ってきません。
高温のなるのは「最高気温 34℃」「最低気温 26℃」みたいな、最低気温が高い地域になる場合が多いです。
こう言う気候は、収穫直前の熟すタイミングで夜間でもガンガン酸度が落ちてしまうので、優秀なワインが作れないのが、有名なワイン産地はない理由になります。
シェリーとかはまさにこの気温ですが、だからこそシェリー酒を作るわけです。
ただし、植物の生育条件としては悪くないのでブドウの実を沢山つけるとは可能で、安ワインの産地としては結構沢山あったりしますが、そう言う物は大抵の場合、地元で消費する安ワインで輸出市場には出てきません。
バルクワインの原料になってたりもしますし、コロナ禍では消毒用アルコールの原料にもなりますね・・・
地球温暖化でどうなるのか?
温度区分帯で最近とにかく話題になるのが「地球温暖化」です。
最初に説明した通り2℃変わると温度区分帯が1つ上に上がるような世界ですから、平均気温が1℃上昇って言うのは大問題なわけですよ。
それが2100年には最悪、産業革命前より4℃程上がると言われています。
4℃上がると冷涼気候が温暖の後半戦、もう少しで高温気候になってしまう程の上昇です。
先にも言いましたが、高温気候では美味しいワインを造るが難しくなります。そうなと現在の冷涼気候帯までしか、まともな産地としては残れないって話になるわけです。
ヨーロッパの場合は、アフリカから地中海を渡って、たまに襲ってくる熱波の問題もあります。
2019年にフランス全土まで到達した熱波は、南仏のラングドック地方で「46.0℃」を記録しています。ここまでくるとブドウの実はもちろん、樹も死ぬ場合が結構あるようで、2019年はラングドック地方では実際に樹がそこそこ枯れています。
温暖かした地球では、この熱波の温度が上がる事と、頻度も増える事が予想されていて地中海沿いの国は戦々恐々としています。
最悪のシュミレーションでは地中海にはみ出ている「イタリア」では「2050年にワイン産地の85%」がワインの生産が難しくなるとまで言われています。
ボルドーの取り組み
そこに向けていち早く動いてきたのがボルドーです。
昨年こんなニュースがありました。
AOCボルドーおよびボルドー・シュペリウールのワイン生産者連合は、2019年6月28日に総会を開き、気候変動に適応した新たなぶどう品種7種のAOC規定への導入を満場一致で承認しました。
赤ワイン用 4品種: アリナルノア、カステ、マルセラン、トウリガ・ナショナル
白ワイン用 3品種: アルヴァリーニョ、リリオリラ、プティ・マンサン
*上記品種は、今後数カ月以内に INAO による最終認定を必要とする。
そう。ボルドーではこの先を見据えて、今まで伝統的ではなかったブドウ品種を試験的に認可し始めたのです。
温度区分帯のところで「ギリギリ温和」的な説明をしたかと思いますが、ボルドーは海の影響が大きいので海水温の上昇をもろに受けます。
結果としてすでに産業革命前から平均気温1.5℃は上昇していると言われています。そう気候区分帯はもはや「温暖」なんです。
さらに30年後には温暖のギリギリラインに到達、高温まで行く可能性も視野に入れているので、下のクラスから試験的に新しい品種を植え始めたわけです。
将来の産地予想
将来的に気候区分帯が1ランク上昇するのは、おそらく避けられない事態です。
1ランクで済めば温和な気候帯まではワイン産地としてまともな機能が残ります。そうするとシュミレーションするとなると
シャンパーニュ : ピノ・ノワール(ただし泡ではなくてスティルワイン)
ブルゴーニュ : シラー
ボルドー : グルナッシュ シラー
ロワール : カベルネ:ソーヴィニヨン メルロー
ドイツ : ソーヴィニヨン・ブラン
温暖な新世界 : グルナッシュ ムールヴェードル
2ランクですと現在の冷涼気候帯しかまともな産地には残れないので、その場合の代表的な産地とブドウ品種は
シャンパーニュ : シラー グルナッシュ
ブルゴーニュ : ムールヴェードル テンプラニーリョ
ボルドー : マルセラン、トウリガ・ナショナル
ドイツ : カベルネ・ソーヴィニヨン シラー
温暖な新世界 : 消滅
みたいな話になってきます。ニューワールドは品種に対してプライドはないでしょうし、産地自体を移動させる作戦も取れるので、実はそんなに困らない気がします。
ドイツも南部がワイン産地なので北部がいくらでも空いてます。
フランスは南仏はもはやブドウ栽培が出来ず、北部に新しい産地が出来るでしょうが、北部はもうさほど残ってません。
ブルゴーニュ産のグルナッシュとかどうすればいいんでしょう?
「ロマネ・コンティ」はグルナッシュの畑として世界で最も偉大で・・・みたいな記述を見るようになるんでしょうか?
2ランクまではちょっと想像したくないですが、1ランク上がるのはかなり現実的に起こりえる未来です。
実際にブルゴーニュもとても温和とは言えない年が増えていますので、そろそろ本腰入れてピノ以外を検討しなくてはいけないでしょう。
温度帯ってそれほどに恐ろしい物なんです!